セミナーの報告5

ライプニッツ・セミナー(第二回)、質問者(町田一)の報告
川添美央子氏「真理は実体から遊離しているか」コメント
町田 一

川添氏の根本問題は、「真理はもののうちにではなく、言われたことのうちに存する」というホッブズのいわゆる唯名論テーゼには、「留保を付した解釈」が必要である、ということである。ここで、「留保を付した解釈」とは、「ホッブズが自分で主張しているほどには、本人は事物から離れて真理を構築しているわけではなく、よって額面通りにうけとるべきではない」という読みのことである。
したがって、川添氏の根本問題は、ライプニッツ以来伝統的とも言い得る、ホッブズ固有とされる唯名論テーゼの批判的検討にあることが明白である。加えて、そもそも「真理が言われたことのうちに存する」という唯名論とは何なのかをわたしたちに考えさせる刺激的な発表であった。
川添氏の主旨は以下のように要約できよう。名の原因である付帯性は、事物から切り離されない、言い換えれば、名の組み合わせである命題は、事物から切り離されない。ところで、ホッブズの言う真理とは常に命題の真理である。したがって、命題の真理は、事物から切り離されない。とすると、「留保を付した解釈」が採用され得る。補足すると、付帯性が名の原因であるとは、例えば、「白い」という名は、「白いもの」(つまり事物)から捨象されてはありえない「白さ」(つまり付帯性)を原因とする、ということである。
これに対して、わたしの疑問は、付帯性が名指し(ないし命名)の原因である、ということは、「留保を付した解釈」の妥当な根拠にはならないのではないか、というものである。確かに、川添氏が、わたしのコメントに対して述べられたように、付帯性が名指しの原因であるということは、命題が名の組み合わせに基づく限り、ホッブズの言う命題の真理と無関係ではないであろう。しかし、ホッブズにおいても、名指しの因果説の問題と命題の真理条件の問題は論理的に別問題のように思われる。とくに、川添氏のように、名指しの因果説を根拠にして命題の真理条件を確定するという方向性には無理があるであろう。例えば、ある生物が「鯨」と名指されることを根拠にして、「鯨は哺乳類である」という命題の真偽を判定する、ということはできない。鯨が哺乳類であるかどうかの真偽が名指し(命名)の段階で確定しているとは必ずしも言えないからである。要するに、名指しの因果説は、命題の真理条件に必ずしも貢献しない以上、川添氏の「留保を付した解釈」には飛躍があると言わざるを得ない、ということである。
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